視点は祈さん。絵は美さん

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創作オリ棒、18話
<祈さん視点>
朝、目を覚ました瞬間から、すべてが異常だった。
視界に飛び込んできたのは、見覚えのない無機質な空間。
そして僕のすぐ傍には、ただ一人、美が座っていた。
「ここは……? なぜ祈さんといるのかしら……?」
いつも上品な美が、完全に困惑しきった声を漏らす。
「さあねー、僕にも来たことないからわっかんない!」
いつもの調子でヘラヘラと笑ってみせた。
けれど、その言葉を口にした途端、空間の空気が鉛のように重くなる。僕の背筋に冷たいものが走った。
それは美も同じだったようで、二人して「……っ」と息を呑む。

その重苦しい空気を纏って現れたのは、顔に布を巻きつけた僕達と同じ棒だった。
「俺の名前はニル。今後お見知りおきくださいね」
「あなたは……ここを管理されていますの?」
美が不安を押し殺して尋ねると、布の奥で奴がくすっと微笑む気配がした。
「はい。俺のご主人から管理を任されております。今回お呼びしたのは理由がありまして……」
「お呼びしたって? 誘拐されたの間違いじゃないのー?」
僕は奴の言葉を遮り、武器である包丁を、威嚇するように振りかぶった。だが次の瞬間、視界が歪む。ニルの手が、僕の頬を容赦なく鷲掴んでいた。
「祈様。人の話を遮るものではないですよ」

血の気が引いた。奴の手は、死人のように冷たい。なぜ僕の名前を知っている。美が隣で鋭く身構える。
「なんで僕の名前を知ってるのかな……!」
僕は自分の包丁でニルの手を切りつけた――はずだった。だが、次の瞬間、激痛が走ったのは僕の右手だった。そこから鮮血が噴き出す。狙いを間違えたのか? 混乱する僕を、奴は見下ろした。
「急に切りかかってくるなんて乱暴な方ですねぇ」
聞く耳なんて持てるか。僕は叫んだ。
「美!!」
美が深く頷く。彼女は杖を召喚し、心の中で魔法を唱えた。その一撃は確実にニルを捉えるはずだった。

しかし、次に瞬きをした瞬間、美の全身に無数の傷が走り、血が舞った。
「……っ、こ、この方はダメですわ……。… ニルさん、わたくしの連れが大変迷惑をかけましたわ。どうかお許しいただきたいですの」
美が頭を下げる。僕の心に猛烈な違和感が這い回った。こんな奴に、なぜ。
「……ええ。こちらこそ傷を負わせて申し訳ありませんでした。紳士たるもの、俺が女性と子供に怪我を負わせてしまいました」
頭に血が上る。
「だ、誰が子供だって……!?」
「祈さん……やめてください」
くそ、どうして僕だけこんなに見下されなきゃいけないんだ。
「ここに呼び出した理由ですが、俺のご主人、イヴお嬢様からお話があります」

「やぁ〜っと呼んだのね? 手こずりすぎじゃない?こんなやつ、ざこっぽいのに」
現れたのは、性格の悪そうなお嬢様、イヴだった。ニルが恭しく礼を示す。
「君達、死んだかもわからないメインとかいうやつに片目を見せたらしいじゃない。ここのマナー、知らないの? 何年もいるような君たちが知らないわけないけどねぇ。紫の君は隠す気もないみたいじゃない」
美が反抗的に言い返す。
「か、隠してなんの意味がおありですの?」
「ここのルールだからよ」
話が通じないと察した美が、僕の耳元で素早く囁いた。
「わたくしが魔法でフラッシュをしますわ。あなたはその隙にあのドアから逃げて。そしてツインくん、和仁さん方に伝えてくださる? わたくしは祈さんたちを信じますわ。ここに助けに来てくださると。……わたくしは少しばかり、挑発してみますの」
逃げ切れるか分からないプレッシャーに心臓が跳ねる。けれど、僕は頷くしかなかった。
「なぁに話しているの?」
「……あなたに説明出来るほど、あなたの頭は良くないと思いますわ……」
美が冷ややかに言い放った瞬間、ドガァアンという破壊音が轟いた。
キレ症の主人が凄まじい風魔法を放ち、その衝撃波が美を壁まで一気に吹き飛ばしたのだ。
僕とニルは、そのキレ症な主人の暴挙に一瞬放心した。
我に返ると、ニルが慌ててイヴを羽交い締めにして止めていた。
「イヴお嬢様、おやめください」
倒れた美と目が合う。その瞳が「作戦を実行しろ」と訴えていた。僕は強く頷き返す。
美の放った強烈なフラッシュが空間を白く染めた。僕は無我夢中でドアを開け、ひたすら走り続けた。

――その後のことは、どうやって家路についたのかさえ、恐怖のあまり記憶にない。
ただ、気づいた時にはもう夕方だった。
静まり返った家に帰り着き、床に座り込んで、ようやく今日の出来事を整理する。
朝起きたら知らない空間にいたこと、ニルとイヴ、そして美が自分を犠牲にして僕を逃がしてくれたこと。
現場では張り詰めていて気付けなかった恐怖が、今になって一気に押し寄せてきた。手も、手以外の傷口の痛みがズキズキと訴えかけ、あの会話の恐ろしさが脳裏に蘇る。冷や汗が止まらず、腰が抜けて立ち上がることもできなかった。
しばらくして、玄関の開く音がして「みんな」が帰ってきた。床にへたり込んだまま震えている僕の姿を見て、みんなは不思議そうな顔を浮かべている。
僕は震える声を必死に絞り出し、今日起きた悪夢のような出来事を、すべてみんなに話し始めた。

続く

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