ホラー小説「2時30分から3時の生贄」

⚠️【物語を読む際の注意事項】
・この物語には、ホラー要素、怪談、および一部不気味な描写が含まれています。
・気分が悪くなった場合は、無理をせず読むのを中断してください。
・就寝前や夜中に一人で読む際は、特にご注意ください。
・物語はフィクションであり、実在の人物、団体、事件とは一切関係ありません。
・この物語はフィクションです。現実世界での学校への無断立ち入りや夜間の徘徊は、絶対に行わないでください。
・次はあなたの番かもしれないので。

その日の夜、椿巫華(つばきふうか)は寒さに身を縮めながら、遅れてしまった塾からの帰還を急いでいた。マフラーに顔を埋め、白い息を吐きながらふと見上げると、そこには不気味に暗い中学校の校舎が立っていた。いつもは賑やかな校舎も、真冬の夜は静まり返っている。
スマホで時間を確認すると、時刻はちょうど2時30分。巫華はぞっとした。学校には奇妙な噂がある。深夜2時30分から3時の間、校舎に足を踏み入れてはいけないというものだ。その時間は「境界の時」と呼ばれ、この世ならざるものが現れるという。
噂を思い出し、巫華は足早にその場を離れようとした。しかし、ちょうどその時、スマホがポケットの中で震える。親友からのメッセージだった。「宿題、どうなった?忘れてないよね?」その瞬間、巫華は顔面が蒼白になるのを感じた。明日が提出日だった理科のレポートを、学校に置き忘れてきてしまったのだ。
「仕方ない…」巫華は意を決し、校門の施錠されていない小さな扉から、学校の敷地内へと足を踏み入れた。凍えるような寒さの中、校舎の通用口の扉を開け、中へと忍び込む。中は外よりもさらに冷え切っていて、空気がピンと張り詰めている。
レポートが置いてあるのは2階の理科室だ。暗闇の中、スマホのライトを頼りに階段を上ろうとしたその時、背後から少女の声が聞こえた。
「大丈夫?」振り返ると、そこにいたのは見慣れない女の子だった。セーラー服の襟元には、今はもう使われていない古いデザインの校章がついていた。巫華が戸惑っていると、その子は「一緒に行こう」とだけ言って、すたすたと歩き出した。
巫華はわけもわからず、その子の後を追った。廊下はどこまでも続き、まるで迷路のようだ。ようやくたどり着いたのは、2階の廊下の突き当たりにある、誰も使っていないはずの旧家庭科室だった。その子はそこでピタリと足を止めると、巫華をぐいと中に押し込んだ。
扉が閉まる音。そして、振り返ると、もうそこにその子の姿はなかった。巫華は不思議に思いながら、扉を開けようとする。しかし、扉はびくともしない。廊下に出ようと、他の扉を探して開けようとするが、どの扉も鍵がかかっているかのように固く閉まっていた。
窓の外は、真っ暗なまま。スマホを見ると、時刻は3時を少し過ぎている。もう帰れるはずなのに。永遠に続くかのような闇の中、巫華は絶望に打ちひしがれた。
ふと、窓の外に、あの女の子の姿が見えた。必死で窓を叩き、巫華は叫んだ。「出して!どうしてこんなことするの!?」
すると、女の子は顔を上げ、静かに言った。
「一度この学校に閉じ込められたら、外に出ることはできないの」
巫華は背筋が凍りついた。すると、女の子は続けて言った。
「一つだけ方法があるわ。…あの教室に、誰かを閉じ込めればいい」
女の子が指差したのは、巫華が今いるこの旧家庭科室だった。
「…閉じ込めた人と引き換えに、あなたはここから出られる。現実に戻れるのは、夜中の2時30分から3時の間だけよ」
女の子は、微笑んだ。
「そうやって、私もここに閉じ込められてしまったの。私を閉じ込めた人は、もうずっと前に自由になった」
巫華は、その言葉の意味を理解した瞬間、全身の血の気が引くのを感じた。彼女は永遠にこの学校から出られない。もしここから出たければ、自分と同じように、別の誰かをこの学校に閉じ込めなければならないのだ。
巫華は崩れ落ちた。終わらない真夜中の学校。窓の外には、冷たい笑顔を浮かべる少女の顔。巫華は、一生この場所に閉じ込められる運命なのだと悟った。
少女は最後に静かに息を吐くように呟いた。
「生贄」
と。
2年後。
巫華が旧家庭科室に閉じ込められてから、どれだけの時間が経ったのだろうか。窓の外は相変わらず闇に包まれ、時間の感覚はすでになくなっていた。
絶望に打ちひしがれ、涙も枯れ果てた巫華は、もう感情の全てを失ってしまったかのようだった。
ある日、彼女が呆然と窓の外を眺めていると、校舎の通用口から一人の少年が忍び込んでくるのが見えた。彼はスマホのライトで足元を照らしながら、恐る恐る中に入ってくる。
巫華の心臓が、久しぶりに激しく鼓動を始めた。
「…あの教室に、誰かを閉じ込めればいい」
窓の外にいたあの少女の声が、巫華の脳裏に蘇る。
少年は、どうやら忘れ物をしたらしい。巫華のいた旧家庭科室のちょうど向かいにある、理科室へ向かっているようだ。
巫華は震える手で、旧家庭科室のドアを開けた。少年は巫華の存在に気づき、驚いて立ち止まる。
「どうして、こんな時間に…?」
少年は、警戒しながらも巫華に尋ねた。巫華は表情を失った顔で、ただ一言、
「…一緒に、行こう」
そう言って、少年を旧家庭科室の中に押し込んだ。
扉が閉まる音。
少年は状況が掴めず、混乱した様子で巫華を見つめる。巫華は、無表情のまま彼に背を向け、ゆっくりと歩き出した。
「どうして!ここから出して!どうしろっていうんだよ!」
少年は、必死で窓の外から自分を閉じ込めた巫華に呼びかける。
巫華は静かに息を吐くように呟いた。
「生贄」
と。
その瞬間、少年の目に映る巫華の顔は、まるで別人のようだった。
そうして、巫華は、現実の世界に戻ることができた。
巫華が解放された日から、どれほど時間が経っただろう。
「深夜2時30分から3時の間、校舎に足を踏み入れてはいけない」
そんな学校の噂を今でも耳にする。
そして、旧家庭科室には、忘れ物をした少年が今も一人、閉じ込められている。

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