短編小説「水色のジブン」

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2話 水色の画用紙

葉月は、動画サイトの履歴を何度も見返した。画面に映る、あの眩い輝き。それは、葉月の凍った心を溶かした、最初の光だった。
「私も、本当の自分を、誰かに見せてみたい」
葉月は、震える手で、動画投稿サイトのアカウントを作成した。名前は、「水色の画用紙」。
その日を境に、葉月は親戚に悟られないよう、こっそりと配信の準備を進めた。部屋の隅で、小さな机に向かい、マイクとウェブカメラをセットする。
「よし、これで…」
初めての配信。緊張で手が震え、マウスを持つ指に力が入らない。
「皆さん、こんにちは……水色の画用紙です」
か細い声が、マイクを通して届けられる。配信画面には、葉月が描いた、愛らしいキャラクターのイラストが映し出されていた。
「今日は、この子の色塗りをする配信です。よろしくお願いします」
コメント欄には、誰もいない。あたりまえだ。まだ、誰にも知られていないのだから。
葉月は、無言で絵を描き続けた。慣れない配信に、何を話せばいいのか分からない。ただひたすらに、色を重ねていく。
(誰も見ていない。私のことなんて、誰も気にしていないんだ)
そう考えると、胸が締め付けられるように苦しくなった。
しかし、そのときだった。
コメントが、ひとつ、投稿された。
きゃろる:はじめまして!
葉月の心臓が、ドクリと大きく鳴った。誰かが、私を見てくれている。
「あ、はじめまして!」
葉月は、思わず素の声で返事をした。
きゃろる:絵、すごく素敵です!
「ありがとうございます……!」
次に投稿されたコメントは、別のユーザーからだった。
とんかつソース:めっちゃ上手い!僕も絵を描くのが好きなんです
二つのコメントが、葉月の心を温かく包み込んだ。それは、親戚の冷たい視線や、学校で演じる自分とは違う、本当の自分を、誰かが認めてくれた瞬間だった。
「嬉しい……本当に、嬉しいです」
葉月は、涙ぐむのを必死でこらえながら、絵に色を加えていく。
「きゃろるさんも、とんかつソースさんも、もしよければ、また遊びに来てくださいね!」
葉月は、初めて、心からそう願った。
(私にも、居場所が、できたのかな)
その夜、葉月は、ドーナツを一口も食べずに、幸せな気持ちで眠りについた。部屋の窓の外は、相変わらず雪が降り積もっていたが、葉月の心は、少しだけ温かくなっていた。