短編小説「君を壊してねこと呼ぶ。」

メガネ無し、牡丹(ほた)くん!可愛いイケメソ

前回
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【三話】

眩しい朝の光を拒絶するように、カーテンを引いた寝室は薄暗い。

ベッドの傍らで、ねこは相変わらず黒いパーカーに身を包み、膝を抱えてじっとしていた。縛られた手首の縄が、時折衣類と擦れて小さな音を立てる。

記憶のない怯えた「ねこ」を監禁している。

その冷酷な現実に胸が痛まないわけではなかった。だからこそ、俺が今彼にできるのは、せめて飢えさせないことくらいだった。

「ねこ、腹減ったろ。待ってろ」

ぶっきらぼうにそう告げて台所に立つ。昨日の夜、食べるはずだった一人暮らし用のカレーが鍋に残っていた。
コンロに火をつけ、お玉でゆっくりとかき混ぜる。温まるにつれて、スパイスの匂いが狭い部屋に広がり始めた。

――だが、皿に盛り付けてみると、どう見ても俺等(おれら)二人が食べるには量が少なすぎた。

「……足りねえな」

さすがにこれだけでは、怪我人であるねこに申し訳ない。冷蔵庫を開けると、卵がいくつか残っていた。
俺はフライパンを熱し、手際よく卵を落とす。じゅうじゅうと小気味いい音が響き、白身の縁がカリカリと狐色に染まっていく。半熟の目玉焼きを、少し小盛りのカレーの上にそっと滑らせた。

「ほら、食え。スプーンは……俺が持っててやる」

寝室に戻り、ベッドの端に腰掛けて皿を差し出す。
ねこは、目の前に差し出された皿と俺の顔を交互に見つめていたが、カレーの上に載った目玉焼きを見た瞬間、綺麗な目を信じられないほど丸く輝かせた。

「わあ……! たまご、載ってる……!」

それまでの怯えや不安が一瞬で吹き飛んだかのような、弾んだ声。
学校で見せていた、あの計算された完璧な「愛想笑い」なんかじゃない。もっと幼くて、無防備で、心の底から湧き上がったような昔の純粋な喜びの笑顔だった。

「……そんなに嬉しいかよ、ただの目玉焼きだぞ」
「うん! うれしい!...... 君が作ってくれたの?」

嬉しそうに体を揺らすねこを見て、俺の胸の奥が妙に温かくなり、同時にひどく締め付けられた。

本当の彼は、こんな些細なことで素直に喜べる子だったのだ。あの地獄のような家で、一体どれほどのものを奪われ、押し殺して生きてきたのだろう。

「あぁ、そうだ。……ほら、口開けろ」

スプーンでカレーと、とろりと溢れる黄身をすくい、彼の口元へ運ぶ。
ねこは「あむっ」と小さな口を開けて、嬉しそうにそれを頬張った。

「んむ……おいしい! ほたくん、すっごく美味しいよ!」

咀嚼しながら何度も頷くねこを見つめながら、俺は安堵の思いを抱いた。それと同時に、独占欲が重く、確実になっていくのを感じた。

この笑顔を、あの父親にも、学校の奴らにも、誰にも見せたくない。
嘘で固めたこの薄暗い部屋だけが、ねこが心から笑える唯一の場所なのかもしれない。きっとそうだ。そう自分に言い聞かせながら、俺は次のひと口をすくい上げた。

みも
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